【試写会】かつて「カルト教団」として大バッシングを受けた謎の集団「イエスの方舟」=45年にして「楽園の真実」を明かしたドキュメンタリー作品『方舟にのって』

映画のパンフレット

 

試写会:「方舟にのって~イエスの方舟45年目の真実~」
監督:佐井大紀(さい・だいき)
製作:TBSテレビ
2024年/日本/69分
7月6日からポレポレ東中野など全国順次公開予定

 

■女性信者の共同生活は今も続いている

 

1980年代当時、「カルト教団」としてセンセーショナルに大報道された謎の集団「イエスの方舟」。その主宰者千石剛賢は、美しく若い女性を次々と入信させ楽園(ハーレム)を形成していると世間を騒然とさせた。

2年2カ月の逃避行の末、千石が不起訴となり事件は一応の終止符が打たれる。しかし彼女たちの共同生活は、45年たった今も続いていた。

日本を代表する数々の監督たちが映画化に挑んだが、実現には至らなかった。本作はその集団の彼女たちに果敢にアプローチし、その信仰と生活を取材し、45年の年月とともに、「イエスの方舟」をもう一度考える機会を提供した。

 

■「カルト教団」とバッシングを受けた謎の集団

 

千石剛賢(せんごく・たけよし)氏は1923年、兵庫県加西市で米問屋を営む裕福な家庭に生まれた。

終戦後、軍隊を辞め刃物工場を営むが失敗。自らの短気な性格が災いしたと思い悩んでいた千石は神戸で出会った宣教師に影響され、独学で聖書について学び始めた。

1960年、大阪から上京し、東京都国分寺市で「極東キリスト集会」を主宰。これが「イエスの方舟」の起源となった。

1975年頃、集団の名前を「イエスの方舟」と改め、家庭を捨てて共同生活を始める者が増える。

1980年2月21日、衆議院予算委員会でイエスの方舟が「狂信的団体」として取り上げられる。マスコミ、メディアによるバッシング、報道が過熱する。

 

いま明かされる「ハーレム」の真実

 

■水商売で生計を立てながら

 

1980年7月2日、千石を含む5人の幹部が名誉毀損、暴力行為の容疑で指名手配される。

1980年7月3日、千石が持病の狭心症により入院。

1980年12月、福岡市博多区中洲を拠点に「シオンの娘」というクラブを経営開始し自活を模索する。

2001年12月11日、千石が福岡市の病院で死去。妻である千石まさ子が、千石剛賢の通称「おっちゃん」を引き継ぐ。

2023年、「シオンの娘」を彼女たちが共同生活する教会のある古賀市に移転する。

 

■剛賢氏亡き後は妻「まさ子」が「おっちゃん」に

 

千石剛賢氏亡き後、「おっちゃん」の名を引き継ぐのは妻の千石まさ子である。18歳の頃、アルバイト先で妻も子もいた千石と恋に落ち結婚。

ともに大阪から上京し、イエスの方舟のメンバーとして生きる。夫の思いを受け継ぐ。歌や太鼓のパフォーマンスは「シオンの娘」の名物の1つだという。

千石剛賢、まさ子の唯一の実子として生まれたのが千石恵。イエスの方舟の主幹であり、シオンの娘の店長を務めている。

本作には千石とともに大阪から上京してきた3家族の1つの娘である千石美砂紀(せんごく・みさき)も登場する。両親が離婚し、父母ともにそろった籍の方が良いと千石家の養女に入った。

ほかに騒動後にイエスの方舟に入った1人が土田尚美(つちだ・なおみ)。幼少期から方舟と家族ぐるみの付き合いがあり、社会人になり悩んでいた中、病を乗り越え活動を続ける千石の姿を見て信者となった。

 

質問に答える佐井監督

 

■制作したのは30歳の佐井大紀監督

 

監督の佐井大紀氏は1994年4月生まれ。神奈川県出身。2017年TBSテレビ入社、ドラマ制作部所属。弱冠30歳の若き監督である。

佐井監督は制作に当たって何が大変だったのかという質問に対し、「撮影というよりも編集だった」と答えた。

監督は「ドキュメンタリーというのは自分で取材対象を決めて、聞きたいことを聞いて、こちらで編集して世の中に出していくという主観的で暴力的なメディアだと思うが、宗教というテーマをどういうふうな目線付けをして作品として仕上げるかが一番苦労した」と述べた。

店に来ているお客さんについては「キリスト教関係の人もいるが、一番多いのは中州時代から通っておられる方たち」と語った。

なぜ本作品を取材しようと思ったのかについては「きっかけは安倍晋三元首相の襲撃事件だった。統一教会の問題が浮上し個人と宗教の関係性を追及したいと思った。その場合、統一教会そのものを取材するというよりも、宗教かどうかもはっきりしない、かって騒がれたイエスの方舟にスポットを当てることによって考えたかった」と答えた。

一方、イエスの方舟があの時代になぜあれだけの求心力を持ってパフォーマンスを実現できたのか、45年後の今も集団生活を続けているのかという問いには、「イエスの方舟は千石剛賢というリーダーシップを発揮する人が中心というよりも、女性たち1人1人が主体であることだ」とコメントした。

「一般的な幸福観とは違う生き方をする女性たちが集まっていてそれを否定しない人(千石剛賢)がいて、それを支えに彼女たちが自分たちの生き方を実現しようとしている。社会からバッシングされるほど団結は強まる。自分たちの生き方を貫き通すことを考えているので、クラブで生活の糧を得ながらも自分の生き方を実現している」と述べた。

イエスの方舟で集団生活する女性たちは聖書とともに在る生き方を貫き通し、今も共同生活を続けている。この共同生活は彼女らの人生観が変わらない限り、千石イエスと言われた千石剛賢氏から夫人の千石まさ子氏、さらには娘の千石恵氏とこれかも続いていくのだろう。

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